最近、「看護師の大量離職」がニュースやSNSで取り沙汰されています。
しかし現役看護師から見ると「これうちの病院でも日常茶飯事だわ」と言う意見が多かったりします。
実際これらのニュースを見て現場の看護師の感想としては半ば諦めたような空気でした。
現役看護師と世間の感覚にはズレがあるような気がします。
最近取り沙汰されているニュースから看護師を取り巻く医療業界についてシンプルに考えてみました。
結論は以下のとおりです。
●少子高齢化で医療体制の維持が困難
●看護師の労働環境の改善はなかなか進まない
●ブラック環境ならさっさと辞めて新しい環境を探す
ブラック病院の判断基準も解説していきます。
コロナ禍をきっかけに医療業界の問題が表出
2023年になり世間ではコロナ禍も落ち着いてきた風潮がありますが、そんな中でも「看護師の大量離職」のニュースが話題になりました。
病院では未だコロナ対策が必要です。医療従事者の「コロナ疲れ」が出てきているのかもしれません。
2023年2月8日に東京医療センターで看護師の16%が退職するというニュースがSNS等で話題になりました。
東京医療センターは、独立行政法人・国立病院機構の一つです。
東京医療センターは、新型コロナウィルスのワクチン接種を日本で最初に行うなど、日本の医療を代表する病院の一つ。旧海軍の軍医学校病院を起源の一つに持つ国立東京第二病院が前身で、現在は34の診療科、約690の病床数を誇る総合病院だ。 「敷地内に同病院機構の本部もあり、国立病院の『総本山』です」(医療担当記者)
https://bunshun.jp/articles/-/60594
ようはめっちゃ大きな病院で医療の最先端を行く病院です。
東京医療センターで看護師の16%が退職
「こんなに人が少ないのに?」と妊婦の看護師に夜勤要求
東京医療センター以外にも東京女子医科大学病院での看護師・医師の大量離職も記憶に新しいですね。
ここ最近は色々な病院での大量離職がニュースになりました。
いくつか紹介します。
「いつ事故が起きても不思議ではない」名門・東京女子医大が“存続の危機”
看護師の大量退職で病床稼働率を最大7割に 鹿児島市立病院 コロナ禍の過酷な職場状況も要因か
看護師不足深刻、病棟休止の医療機関も 青森県内 都会に人材流出、コロナ対応の疲弊も要因か
「急変患者が出たら終わり」“看護師大量退職”国立病院機構 傘下の病院で危険な「一人夜勤」横行の疑い
ここ数年で看護師を始めとする医療従事者のブラックな労働環境が表に出てくるようになりました。
これらはもちろん新型コロナウイルスの流行で医療現場に多大な負担がかかったことが大きいと思います。
しかし新型コロナウイルスを抜きにしても、実際に現場で働く身としては大変な仕事環境だと思います。
夜勤では診療科によりますが、不穏患者の対応や点滴更新やおむつ交換、朝になれば患者さんの離床、食事介助、経管栄養、採血の合間を縫って巡回対応、ときには急変や転倒の対応など。急性期では入院対応まであったりします。
休憩や仮眠も満足に取れず残業で家に帰るのは昼過ぎなんて病院もザラにあります。
これらの病院では、深刻な人材不足や業務過多であるにも関わらず対策が行き届いておらず現場にしわ寄せが出てきています。
そしてさらに退職者は増えるという悪循環です。
ブラック環境まとめ
●30分〜Ⅰ時間の前残業をして情報収集
●残業が常態化しているのに残業代は出ない
●休憩はほとんど取れない
●研修や詰所会、勉強会は残業代が出ず、休日でも強制出席
●退職のタイミングは年に一度だけ
●妊娠していても夜勤免除なし
●常にプレッシャーがかかる
●人間関係が悪い、常にみんなイライラ
改善されない労働環境
これまで見てきたように、看護師の大量離職が起きるような病院は劣悪な労働環境であることがわかります。
しかし日本の医療は診療報酬は決まっているので、患者の数を減らしたり看護師の数を増やせば経営が困難になります。
歯科や美容などの自費診療ができる病院は別として、基本的に「うちは手厚い体制で医療を提供するからその分費用は高額です」という差別化をして収益を上げるわけにはいかないんですね。
ここが普通の会社の違うところです。
そのため看護師の労働環境を守るためには業務を効率化して無駄なことをしないようにしなければなりません。
しかし病院はこの業務の効率化が大の苦手です。
IT化も進まず未だに病院間での患者情報を「ファックス」でやり取りをしています。
電子カルテの共有化なんて夢のまた夢です。
また、何をするにもチェック表に記入したりダブルチェックをしたりとなかなかスピーディに業務を進めることができなかっったりします。
なぜ業務の効率化が難しいのか
病院、病棟組織は合理的な判断が苦手
一例として、何か病院で事故や間違いが起きたときは対策を講じる必要があります。
患者の取り違えや誤薬、転倒など様々ですがどれも患者の不利益になるのできちんと対策しないといけません。
その対策として「チェック項目やチェック回数を増やしましょう」となることがよくあります。
簡単で一見効果がありそうですよね。
業務を効率化するということは無駄な業務を減らすということです。
しかし業務を減らすことには「患者に提供するサービスが低下してしまう」という心理になってしまいます。
現場も「楽をしたいと思われてしまいう」と無駄な業務を減らすことに及び腰になってしまいます。
しかし業務過多な環境ではチェック体制が機能不全に陥ります。
根本的な原因に目を向けず思考停止をして事故が起きるたびに「チェック項目や回数を増やす」ことがさらなる事故を呼び寄せます。
これは病院という組織が患者の命を預かる責任の大きさゆえに合理的な判断が苦手になってしまっていると考えます。
私個人は勇気を持って業務の効率化をすることが事故防止や看護の質向上に必要だと思います。
実際、鹿児島市立病院では看護師の離職を防ぐために以下のような対策を打ち出すようです。
病院は今年度から看護師の退職を防ぐため「チューター制度」を設け、先輩が悩みを聞くなどの取り組みを進める方針です。
https://www3.nhk.or.jp/lnews/kagoshima/20230406/5050022528.html
このように看護師の労働環境そのものを改善することができない病院が多いです。
診療報酬と今後の日本の医療
●日本臨床外科学会より、日本の医療について解説している記事がありました。
このままでは日本の医療は崩壊する
要約すると「診療報酬を最適化しないと日本の医療制度は維持できない」ということです。
これからの日本はこれまでの常識だった「少ない自己負担で誰でも平等に医療を受けられる」ことができなくなっていくのかもしれません。
看護師が個人でできること
ブラックな環境を避ける
実際、就職してみないとそこがブラックな環境なのかを見極めることは難しいと思います。
それでも転職の際には病院見学は必要だと思います。
ブラックかどうかを分ける一番のポイントは「人間関係」だと思います。
ナースステーションの看護師の雰囲気、特に新人看護師が生き生きと仕事ができているどうかチェックすることが必要です。
待遇や給与面だけでなく現場の人間関係や雰囲気をよく観察しておきましょう。
まずは「自分を大切に」
一看護師である我々は個人として医療業界を変えることはできません。
一人ひとりが医療業界について考えることは大事だと思いますが、私はまずは個人として居心地の良い環境を見つけることが大事だと思います。
ブラックな病院だと思ったらさっさと辞めて新しい職場を探したほうが今度の人生にとって確実に良いと思います。
そんな私も最初に務めた病院がスーパーブラックな病院でした。
病んでしまう前になんとか離脱することができましたが、あのまま続けていたらと思うと恐ろしい気持ちになります。
ブラックな環境の恐ろしいところは、その環境が当たり前になってしまいそこから逃げ出すことができなくなることです。
パワハラや長期間労働でボロボロになっても「自分が仕事ができないから悪いんだ」と自尊感情が削られてますます「逃げてはいけない」と自分を追い込んでしまいます。まずは自分の環境がブラックなのか見極めること、もしブラックな環境なのであれば速やかに辞めることをおすすめします。
長くブラックな環境にいると正常な判断を見失ってしまいます。
もちろんホワイトな職場であっても多少の残業や理不尽な出来事は起こり得ると思います。
そこでもし自分の環境がブラックなのか?疑問に思ったら「一人の人間、看護師として尊重されているのか」考えてみてください。
もし自分が一人の人間として、看護師として大事にされていないと感じるなら環境を変えることを勧めます。
ブラックな環境では自分を大切にすることは難しく、そんな環境で患者さんを守ることはできません。
なかなか退職させてくれないときの対処法についての記事も参考にしてください。
看護師の労働環境が少しでも良くなることを願っています。
看護は素晴らしい仕事
これまで日本の医療業界や看護師の労働環境についてネガティブなお話ばかりをしてきましたが、私は看護という仕事は本当に素晴らしいと思っています。特に精神科看護師として働いたことは自分の人生にとってとても大事な経験になったと思います。
看護師という仕事は素晴らしい、だからこそ良い環境で看護ができるところを選ぶ必要があります。
ブラックな環境でボロボロになってしまった人こそ、輝ける場所があると思います。
まずはゆっくり休んでから、自分にあった場所を探しましょう。
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